むし歯って何?
甘いものを控えて歯磨きを一生懸命やっているのにむし歯ができたりしていませんか?
むし歯ってどうしてできるのでしょうか?甘いものの食べ過ぎや歯磨きが不十分なためだと思われがちですが、実はそれだけではありません。どうしてむし歯になるのか予防方法を知っていれば、むし歯は風邪よりも簡単に防ぐことができると言われています。歯は食べ物を食べる度に歯を形作るミネラルが溶けて(脱灰)、唾液によって溶け出たミネラルが取り込まれる(再石灰化)ことを繰り返しています。
しかし、図のような脱灰と再石灰化のバランスが崩れてしまうと、むし歯になってしまいます。一方、そのバランスを保っている人はむし歯は進行しません。むし歯の原因は食事や歯磨きの仕方以外にも、お口の中にいる細菌の数や唾液の質や量、部位特異性など様々な要因が関係しているのです。
大事な知識①
細菌
実はお口の中には約500種類、数億もの細菌がいると言われています。一見きれいで健康なお口の中にも細菌は存在しています。その細菌を大きく3つに分類すると「むし歯菌」「歯周病菌」「その他」になります。むし歯菌の代表的な菌はミュータンス菌(きっかけの菌)とラクトバチラス菌(進行させる菌)があります。これは唾液の検査で調べることができます。ミュータンス菌とは1歳半~3歳までに感染すると言われている細菌で、何かをしてすぐに減らせることができる細菌ではありませんので、そもそもの活動を抑えることが必要になります。また、ラクトバチラス菌は間食の多い方や詰め物の適合が合っていない方に多いと言われています。この細菌はミュータンス菌と違い、間食を減らすことや適合の合った詰め物に変えることで減少することがあります。
大事な知識②
唾液(つば)の役割
汚いと思われがちな唾液には歯を守ってくれる力があるのです。お口の中はもともと中性を保っていますが、食べ物を食べる度にお口の細菌が食べ物を分解し、炭水化物を栄養素に酸を吐き出します。すると、中性だったお口の中は酸性に傾き、歯を形作るミネラルが解け始めます。これを脱灰と言います。脱灰が続いてしまうと穴が空いてしまいますが、それを防いでくれるのが唾液なのです。唾液は歯の表面を中性に戻す働きを持っています。表面が唾液に浸され中性に戻ると、歯はミネラルを取り戻します。これを再石灰化と言います。このように、歯は食事をする度にミネラルが溶け出す脱灰と、唾液によってミネラルが取り込まれる再石灰化を繰り返しているので、このバランスを崩さなければむし歯を防ぐことができるのです。
大事な知識③
食生活
歯は食事の度に歯を形作るミネラルが細菌による酸で脱灰し、唾液によって中和されて再石灰化することを繰り返しています。3度の食事以外にも甘い飲み物や飴など間食が多い人は、その間歯が脱灰し続けているので、唾液による中和が間に合いません。つまり、歯がずっと溶けている状態になるのです。また、寝る前の飲食は非常に危険です。なぜなら、睡眠中には唾液がほとんど出ないからです。むし歯は、脱灰と再石灰化のバランスが壊れた時に出来てしまいます。間食をしないではなく、決まった時間に食事を取ることや、間食は食後すぐに取るなどの工夫をして、脱灰と再石灰化のバランスを保つことが大切です。
大事な知識④
歯磨き
ご飯を食べたらしっかり歯磨きをしているのにむし歯になってしまう。それはどうしてでしょうか?歯ブラシで完璧にプラーク(歯垢)を落とせることが出来たらいいのですが、プラークは強固な粘着力をもって歯にくっついているので、歯ブラシの毛先が当たっても簡単には落ちません。そして、特に歯ブラシの届きにくいところや唾液の流れが悪いところなどがむし歯になりやすいのです。お口の中は高温多湿で栄養豊富なので、地球上で最も細菌の繁殖しやすい場所と言っても過言ではありません。そんなお口の中から細菌を一掃することは不可能に近いので、歯ブラシの目的をプラークをゼロにすることではなく、古い細菌を壊し、比較的影響力の少ない新鮮なプラークの状態にしておくことが大切です。歯ブラシでお口の中を清潔に保つことは大事ですが、それだけではむし歯を防ぐことはできないのです。
大事な知識⑤
部位特異性
むし歯はどこにでも同じようにできる訳ではありません。部位特異性と言ってむし歯になりやすい場所となりにくい場所があるのです。それは主に歯の質と唾液の影響があります。歯はエナメル質という硬い組織で覆われていますが、歯ぎしりや歯ブラシ圧の強さなど、何かしらの影響でエナメル質が削れてしまい、その下の象牙質が露出してしまうことがあります。象牙質はエナメル質と違いとても酸に弱く溶けやすいところです。唾液の流れが良いところでは、歯の質の弱点はあまり問題になりませんが、唾液の流れが悪い部分は、唾液の流れが良い場所に比べると非常にむし歯になりやすいのです。唾液の流れが良い場所では、常に唾液によって汚れを洗い流す作用が働き、作られた酸はすみやかに中和されます。その結果、脱灰の時間が短く再石灰化されている時間が長いので、むし歯になりにくいのです。一方唾液の流れが悪いところは、糖分が洗い流されにくくなり作られた酸が中和されないため、細菌が増殖しやすくなります。その結果、脱灰している時間が長く、再石灰化している時間が短いのでむし歯になりやすいのです。
おまけの知識①
キシリトール
キシリトールとは、むし歯のきっかけの菌であるミュータンス菌に効果的なものです。通常、飲食によって分解されて炭水化物となったものをむし歯菌が食べて酸を吐き出します。しかし、飲食後にキシリトールを食べることによって、細菌が炭水化物と勘違いしてキシリトールを食べます。その結果、酸を吐き出すことができなくなりその活動が弱まるのです。キシリトールを継続して食べることで、むし歯菌の活動が抑えられ、プラーク(歯垢)が付きにくくなると言われています。また、生まれたての赤ちゃんのお口の中は、無菌状態と言われていますが、親からの口移しなどで移ってしまいます。つまり、感染源となるお母さんのお口の中にある細菌の数を、出産前に減らしておくことが大切になります。細菌を減らすには時間が掛かると言われており、キシリトールを1日3粒、食後に毎日食べることを3ヶ月間継続すると、効果が出てくるという報告があります。
おまけの知識②
フッ素
CMなどで「フッ素」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、フッ素にはどのような効果があるのか知っている方は少ないと思います。フッ素とは、歯を形作るミネラルを溶かす脱灰を抑制し、ミネラルが取り込まれる再石灰化を促進し、更には細菌を抑制してくれる効果があります。このような様々な働きによって、むし歯予防において非常に高い効果を発揮してくれるのがフッ素なのです。また、フッ素塩分は食品中にも含まれており、誤った使い方をすると身体に害を与える場合もありますが、正しく使用すると特に問題はありません。担当の歯科衛生士に使用方法や効果を指導してもらい正しくフッ素を使用しましょう。
まとめ
上記の説明のようないくつもの要因が重なり、更に時間が経過してようやくむし歯ができるのです。『削って詰める』という単なる修理だけがむし歯の治療法ではありません。本来あるべきむし歯の治療とは、自分自身のむし歯のリスク(かかりやすさ)やむし歯の成り立ちなどの知識をしっかりと身につけ、歯科医院と二人三脚で歯を悪くする根本的な原因を無くしていくことなのです。これからは痛くなったら行く歯医者ではなく、歯を守るために掛かり付けの歯医者へ通い、担当の歯科衛生士を持ち、定期的なメンテナンスを受けるようにしましょう。
歯周病って何?
30代の約8割の人が歯周病と言われています
歯周病って聞いたことありますか?聞いたことはあるけれどどんな病気かは知らないという方が大半だと思います。実は30代の約8割の人が歯周病と言われており、歯を失う原因の半分が歯周病なのです。ところが、重症化する歯周病(侵襲性歯周病)の発生率は0.05~0.1%と本来は稀な病気だと言われています。
歯周病は「バイオフィルム」という細菌による感染症です。バイオフィルムとは、細菌が共同生活している集合体のようなもので、歯と歯茎に対して強固に張り付き歯茎に炎症を起こします。更にバイオフィルムは耐性も強いため、抗菌剤や抗生物質を通さず、免疫細胞である白血球も入り込むことができません。その結果、細菌が増殖し歯槽骨(歯を支えている骨)に細菌が侵入しようとするのを防ぐ自己防御反応として、歯を支えている骨の破壊を起こすのです。また、重度歯周病になってしまうと、歯周外科(歯茎の手術)や再生療法など、複雑かつ大変な治療が必要になり容易には治りません。しかし、初期の歯周病は比較的簡単に治る病気なのです。なぜなら、どんな重度歯周病であろうとも、最初は軽度の歯周病なので、個人の歯周病のかかりやすさ(リスク)を調べることによって、早い段階から歯周病の進行を止めることが可能なのです。できるだけ若いうちから適切な治療をし、定期的に管理しておけば、悪化を防ぐことができる病気であることが分かってきました。
定期的な管理とは自身のリスク(かかりやすさ)を知った上で、セルフケアとプロフェッショナルケア(歯科医院で行うバイオフィルムの除去)を行うことです。日本人の多くの方は、健康な状態で歯科医院にメインテナンス目的で通う習慣があまりないため、悪くなってから歯科医院に通い既に手遅れな歯周病の患者さんが多いのです。そこで当院では、Roy C. Page(元ワシントン大学歯学部教授)をはじめとするアメリカの歯周病専門医グループと、PREVISER社が10年かけて開発した、歯周病のリスク評価を行なう「OHI‐S」というソフトウェアを使用し、蓄積され続ける膨大な疫学データをもとに構築した、世界基準のリスク評価を提供し、そのリスクに合わせたメインテナンス間隔を推奨しています。